3行要約

  • 中国半導体受託製造最大手のSMICが、AI向けチップ需要の急増により2024年第2四半期の純利益を前年同期比で約3倍に伸ばした。
  • 米国による先端装置の輸出規制を背景に、中国国内のAIスタートアップが「NVIDIA代替」としてSMICでの製造を加速させている。
  • 開発者は今後、西側諸国のクラウドに依存しない「中国製AIハードウェア」と「そこで動く高性能な独自モデル」の台頭を無視できなくなる。

📦 この記事に関連する商品(楽天メインで価格確認)

GeForce RTX 4090

SMICの追撃を振り切る現状最高峰の演算性能を確保するため

楽天で価格を見る Amazonでも確認

※アフィリエイトリンクを含みます

何が起きたのか

SMIC(中芯国際集成電路製造)が発表した決算は、AI業界の勢力図が確実に二極化していることを証明しました。売上高は前年同期比約22%増の19億ドル、純利益に至っては約3倍の6億ドル超という驚異的な数字を叩き出しています。この急成長の背景にあるのは、皮肉にも米国による対中輸出規制です。

NVIDIAのH100やH200といった最先端GPUの入手が困難になった中国国内では、Huawei(ファーウェイ)の「Ascend」シリーズをはじめとする国産AIチップへのシフトが急速に進んでいます。これらのチップの多くを製造しているのがSMICです。つまり、規制が国内需要をSMICへ強制的に集中させ、巨大な「保護された市場」を作り出したといえます。

私が注目しているのは、単なる利益の数字ではなく、工場の稼働率です。今期の稼働率は前四半期の80%台から92%近くまで上昇しており、フル稼働に近い状態です。これは実験的な製造ではなく、実務で使えるレベルのAIチップが大量に市場へ供給され始めていることを意味します。エンジニアとして見逃せないのは、これが単なる「数」の問題ではなく、中国発のLLM(QwenやDeepSeekなど)の急速な進化を支える物理的な基盤になっているという事実です。

技術的に何が新しいのか

SMICが直面している最大の壁は、最先端のEUV(極端端紫外線)露光装置を使えないことです。しかし、彼らは旧世代のDUV(深紫外線)装置を用いた「マルチパターニング」という技術を極限まで使い倒すことで、実質的な7nmプロセスの量産を実現しています。

従来、7nm以下の微細化にはASML製のEUV装置が不可欠とされてきました。しかしSMICは、回路を複数回に分けて露光する力技(セルフアライメント・クアッドパターニング等)により、歩留まりの悪さを物量でカバーしながらチップを製造しています。この手法は製造コストが跳ね上がり、TSMCと比較すれば効率は極めて悪いのが現実です。

しかし、国家的な補助金と「背に腹は代えられない」国内需要が、このコスト度外視の技術開発を支えています。私たちが普段触れている「DeepSeek-V2」のような、GPT-4クラスに肉薄するオープンモデルが中国から次々と登場しているのは、SMICが供給するこの「不効率だが動く7nmチップ」による演算資源があるからです。

また、SMICはAIチップそのものだけでなく、それらを繋ぐインターコネクト技術や、2.5D/3Dパッケージング技術の国産化にも注力しています。これは、個々のチップ性能が低くても、それらを効率よく並列化することで、システム全体としてNVIDIA環境に近いパフォーマンスを出そうとするアプローチです。Pythonで並列処理を最適化するのと似た発想を、ハードウェアの物理レイヤーで行っているわけです。

数字で見る競合比較

項目SMIC (今回)TSMC (競合)Samsung (競合)
第2四半期純利益約6.1億ドル (前年比3倍)約76億ドル (前年比36%増)約77億ドル (前年比15倍)
主力プロセス7nm (DUVマルチ露光)3nm / 5nm (EUV)3nm (GAA構造)
AIチップ供給先Huawei, Biren, Moore ThreadsNVIDIA, Apple, AMDGoogle (TPU), 自社
地政学的リスク米エンティティリスト対象地政学的リスク大比較的安定

この数字から見えるのは、SMICが収益性や技術精度では依然としてTSMCに遠く及ばないものの、成長率という一点において圧倒的なモメンタムを持っていることです。Samsungの利益15倍はメモリ価格の回復という特殊要因が大きいですが、SMICの3倍は「AI需要による構造的な変化」に支えられています。

実務者としてこの差をどう見るべきか。それは「最高性能を求めるならTSMC、だが供給の多様性を確保するなら中国製ハードウェアの動向も無視できない」というフェーズに入ったということです。特にローカルLLMを安価な推論チップで動かしたい場合、今後SMIC製のチップを搭載した安価なPCIeカードが、私たちの選択肢に入ってくる可能性は十分にあります。

開発者が今すぐやるべきこと

このニュースを受けて、AIエンジニアやアーキテクトが取るべきアクションは3つあります。

  1. 中国発LLMの推論効率を検証する NVIDIA環境に最適化されたモデルだけでなく、Ascend等の中国製NPU向けに最適化が進んでいる「Qwen2」や「DeepSeek」の量子化モデルを試してください。これらはハードウェアの制約をソフトウェアの工夫(MoE:Mixture of Expertsなど)で乗り越えようとする設計思想が強く、限られたVRAMでの運用に非常に役立ちます。

  2. ハードウェアの「マルチクラウド・マルチベンダー」化を検討する 現在、多くのプロジェクトがNVIDIA A100/H100を前提にしたインフラ構成になっていますが、SMICの台頭は半導体市場の分断を加速させます。将来的に特定のアクセラレータが手に入らなくなるリスクに備え、PyTorchのコードを特定のGPUベンダーに依存させない(device = "cuda" だけでなく mpsxpu を意識する)書き方を徹底すべきです。

  3. ローカルLLM実行用のハードウェア資産の再評価 SMICが成熟プロセス(28nm以上)でも高い利益を出していることに注目してください。AIは最先端の学習だけでなく、エッジでの推論需要が爆発します。安価なSoCやFPGAでLLMを動かすための「Llama.cpp」や「MLX」などの技術を今のうちに習得しておくことが、将来的なインフラコスト削減の鍵になります。

私の見解

正直に言って、私はSMICの成長に恐怖と期待の両方を感じています。RTX 4090を2枚挿してローカル環境を構築している私のような人間にとって、NVIDIAの独占による価格高騰は頭の痛い問題です。SMICが製造する中国製AIチップが、もしNVIDIAの8割の性能で半額の価格設定で市場に出てくれば、開発者コミュニティは一気にそちらへ流れるでしょう。

しかし、それは同時に「AIスタックの分断」を意味します。ライブラリの互換性、ドライバの不安定さ、そして何より政治的なリスク。私たちは今後、「技術的に優れているか」だけでなく「そのチップがどこで作られ、いつ供給が止まるか」を考えながらコードを書かなければならない時代に突入しました。

「とりあえずNVIDIA」という思考停止が許される時間は、残り少ないかもしれません。SMICの利益3倍という数字は、そのカウントダウンの音のように私には聞こえます。

よくある質問

Q1: SMIC製のチップは日本からでも購入・利用できますか?

直接のチップ購入は難しいですが、SMIC製SoCを搭載した開発ボードや、SMICが製造を受託しているメーカーのグラフィックカードは、海外通販などを通じて入手可能です。ただし、米国の制裁状況により将来的にドライバの更新やサポートが制限されるリスクがある点には注意が必要です。

Q2: 7nmプロセスで作られた中国製GPUは、RTX 4090に勝てますか?

現時点では、単体性能でRTX 4090やH100に勝つことは困難です。しかし、DeepSeek-V2のようなモデルが示す通り、ソフトウェア側で演算量を極端に減らす工夫(MoE)を組み合わせることで、システム全体としての実効速度は西側のハイエンド環境に匹敵するケースが出始めています。

Q3: SMICの勢いは今後も続くのでしょうか?

短期的には続きます。中国政府による莫大な補助金と、国内の巨大なAI市場がSMICを支えているからです。ただし、EUV露光装置の代替技術を自力で開発できるかどうかが、5nm以下の次世代プロセスへ進めるかどうかの分水嶺になります。今後3ヶ月から半年の間に、SMICがさらに微細化したチップの試作に成功したというニュースが出るかどうかが焦点です。


あわせて読みたい