所要時間: 約30分 | 難易度: ★★★☆☆

この記事で作るもの

  • 使わなくなった古いスマートフォンを、ローカルLLM(Visionモデル)と連携させて「特定の事象を検知・監視」するAIカメラに変えます。
  • 映像データは一切クラウドに送信せず、自宅のPC内だけで解析を完結させるプライベートな監視システムを構築します。
  • Python環境とOllamaを使用し、ブラウザ経由でスマホのカメラ映像をローカルサーバーに送り、リアルタイムで内容を言語化・判定する仕組みを作ります。

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VRAM 16GBでVisionモデルを動かしても余裕があり、複数カメラの並列処理にも耐えられるため

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先に確認するスペック・料金

このシステムを実用的な速度(レスポンス1秒以内)で動かすには、GPUの性能がすべてを決めます。 私が検証した結果、最低でもVRAM 8GBを搭載したNVIDIA製GPU(RTX 3060 12GB以上が理想)が必要です。 Macユーザーであれば、メモリ16GB以上のApple Silicon(M1/M2/M3)搭載機であれば、Moondream2などの軽量モデルが快適に動作します。

料金については、オープンソースのモデルと自前の機材を使うため、電気代を除けば完全に無料です。 クラウド型のAI監視カメラ(Google NestやRingなど)は月額サブスクリプションが必要ですが、この方法なら一切のランニングコストがかかりません。 もし中古で機材を揃えるなら、RTX 3060 12GBを積んだPCを1台用意するのが、コストパフォーマンスと拡張性の面で最も賢い選択になります。

なぜこの方法を選ぶのか

既存の監視カメラシステムは「動き」に反応するものが大半ですが、それでは「猫がエサを食べたか」や「郵便ポストに封筒が入ったか」といった文脈の判断ができません。 GPT-4oなどのAPIを使えば高度な判断が可能ですが、自宅のプライベートな映像を24時間クラウドに流し続けるのは、元SIerとしてセキュリティリスクが見過ごせません。 また、API利用料も24時間動かせば数日で数万円に達する可能性があります。

今回紹介する「local-monitor」というアプローチは、Ollama経由で軽量なVisionモデル(moondream2など)を利用します。 これにより、プライバシーを完全に守りながら「何が起きているか」をテキストで判定できるエージェントをローカルに構築できるのが最大のメリットです。 特定の物体を検知するだけの物体検出(YOLO等)とは違い、LLMによる状況判断ができるため、監視の柔軟性が圧倒的に高いです。

Step 1: 環境を整える

まずはAIの「脳」となるOllamaと、その上で動くVisionモデルを準備します。

# Ollamaをインストール(公式サイトからダウンロード済みであること)
# ターミナルで軽量Visionモデル「moondream」をプルする
ollama pull moondream

moondreamを採用するのは、パラメータ数が約16億と非常に小さく、レスポンスが極めて速いからです。 RTX 4090を2枚挿している私の環境では、ほぼリアルタイムで応答が返りますが、中堅クラスのGPUでも1秒前後で結果が出ます。 次に、サーバーを動かすためのPython環境を作成します。

# プロジェクト用のディレクトリ作成と移動
mkdir local-ai-monitor && cd local-ai-monitor

# 仮想環境の作成
python -m venv venv
source venv/bin/activate  # Windowsの場合は venv\Scripts\activate

# 必要なライブラリのインストール
pip install ollama Flask flask-cors

Flaskはスマホからの映像を受け取るWebサーバーとして、OllamaライブラリはLLMとの通信用に使用します。

⚠️ 落とし穴: Ollamaが起動していない状態でスクリプトを動かすと、Connection Errorで即終了します。必ず「ollama serve」がバックグラウンドで動いているか、アプリ版のOllamaが常駐していることを確認してください。

Step 2: 基本の設定

次に、スマホから映像を受け取り、Ollamaに「今、何が見える?」と問いかけるメインのバックエンドサーバーを作成します。 server.py という名前で以下のコードを保存してください。

import os
import base64
from flask import Flask, request, jsonify
from flask_cors import CORS
import ollama

app = Flask(__name__)
CORS(app)  # スマホ(別デバイス)からのアクセスを許可するために必須

# 設定:監視のプロンプト
# 「何が見えますか?」ではなく、具体的なYes/Noで答えさせると処理が安定します
MONITOR_PROMPT = "Is there a person in this image? Answer only 'Yes' or 'No'."

@app.route('/analyze', methods=['POST'])
def analyze_frame():
    data = request.json
    if not data or 'image' not in data:
        return jsonify({"error": "No image data"}), 400

    # Base64形式の画像データをデコード
    image_data = base64.b64decode(data['image'].split(',')[1])

    try:
        # Ollama APIを呼び出し
        # moondreamは高速だが、精度が足りない場合は 'llava' に変更を検討
        response = ollama.generate(
            model='moondream',
            prompt=MONITOR_PROMPT,
            images=[image_data]
        )

        result = response['response'].strip()
        print(f"AIの判定: {result}")
        return jsonify({"status": "success", "result": result})

    except Exception as e:
        print(f"エラー発生: {str(e)}")
        return jsonify({"status": "error", "message": str(e)}), 500

if __name__ == '__main__':
    # 外部からのアクセスを許可するため 0.0.0.0 でホスト
    app.run(host='0.0.0.0', port=5000)

このコードで重要なのは CORS(app) と host='0.0.0.0' の設定です。 これを行わないと、PC上のローカルホスト以外(つまりスマホ)からの通信が全てブロックされます。 SIer時代、開発環境でこれが原因の通信エラーにハマる若手エンジニアを何人も見てきました。

Step 3: 動かしてみる

サーバーを起動します。

python server.py

次に、スマホ側の準備です。 本来は専用アプリを作りますが、テストとして「ブラウザからカメラ映像を一定間隔でサーバーに飛ばすHTMLファイル」を用意するのが一番手っ取り早いです。 以下の index.html を作成し、PC上のブラウザで開くか、スマホでPCのIPアドレスにアクセスして開きます。

<!DOCTYPE html>
<html>
<body>
    <video id="video" width="640" height="480" autoplay></video>
    <canvas id="canvas" width="640" height="480" style="display:none;"></canvas>
    <div id="result">判定待ち...</div>

    <script>
        const video = document.getElementById('video');
        const canvas = document.getElementById('canvas');
        const resultDiv = document.getElementById('result');

        // カメラ起動
        navigator.mediaDevices.getUserMedia({ video: true })
            .then(stream => { video.srcObject = stream; });

        // 3秒ごとにフレームをサーバーに送信
        setInterval(() => {
            canvas.getContext('2d').drawImage(video, 0, 0, 640, 480);
            const imageData = canvas.toDataURL('image/jpeg');

            fetch('http://[YOUR_PC_IP]:5000/analyze', {
                method: 'POST',
                headers: { 'Content-Type': 'application/json' },
                body: JSON.stringify({ image: imageData })
            })
            .then(res => res.json())
            .then(data => {
                resultDiv.innerText = "判定結果: " + data.result;
            });
        }, 3000);
    </script>
</body>
</html>

[YOUR_PC_IP] の部分は、自分のPCのプライベートIP(192.168.x.x など)に書き換えてください。 スマホとPCが同じWi-Fiに繋がっていれば、スマホのブラウザでこのファイルを開くだけで、カメラ映像がAIに送られ始めます。

期待される出力

サーバー側のコンソールに以下のように表示されれば成功です。

AIの判定: No
AIの判定: Yes
AIの判定: Yes

スマホが映している範囲に人が入った瞬間、AIが「Yes」と判断しているのがわかります。

Step 4: 実用レベルにする

単に「Yes/No」を画面に出すだけでは実用的ではありません。 「Yes」と判定された時にLINEやDiscordに通知を送る機能を実装してみましょう。 これができれば、仕事中に自宅の様子をスマホ経由で監視し、異常があれば通知を受け取る仕組みが完成します。

ここでは、最も簡単なDiscord Webhookとの連携例を示します。

import requests

DISCORD_WEBHOOK_URL = "あなたのWebhookURL"

def send_notification(message):
    payload = {"content": message}
    requests.post(DISCORD_WEBHOOK_URL, json=payload)

# Step 2のコード内、判定部分を以下のように修正
if "Yes" in result:
    send_notification("⚠️ 監視エリアに侵入者を検知しました!")

実務的な運用のコツとして、Visionモデルは時々誤検知をします。 そのため「3回連続でYesと判定されたら通知する」といったカウンタを入れることで、光の加減による一瞬の誤作動を排除できます。 私が自宅のサーバーラック監視に使っているスクリプトでは、この「連続判定ロジック」を入れることで誤通知を90%以上削減できました。

また、モデルを moondream から llava:7b や qwen2-vl に変更すると、より詳細な説明(「赤い服を着た人が立っている」など)を得られます。 ただし、VRAM消費量が増えるため、自分のGPUの空き容量と相談しながら調整してください。

よくあるトラブルと解決法

エラー内容原因解決策
Connection RefusedスマホからPCのIPにアクセスできていないWindowsファイアウォールで5000番ポートを許可してください
Out of Memory (OOM)VRAM不足モデルを moondream などの軽量版に変更するか、他の重いアプリ(ブラウザ等)を閉じてください
Camera Not Foundブラウザのセキュリティ制限スマホでHTTPS通信でない場合、カメラ許可が出ないことがあります。検証用なら chrome://flags で許可するか、ngrokなどで一時的にHTTPS化してください

次のステップ

このシステムが動くようになったら、次は「監視スケジュールの自動化」に挑戦してみてください。 Pythonの schedule ライブラリを使えば、「夜間だけAI監視を有効にする」といった運用が可能です。 さらに、スマートプラグと連携させて「人がいない時にテレビがついたままなら、自動で電源を切る」といったAIエージェント的な動きをさせることもできます。

今回の試みで重要なのは、LLMを「チャットツール」としてではなく、外界を認識する「センサー」として扱った点にあります。 ローカルLLMの真価は、こうしたエッジデバイスとの組み合わせによる「パーソナルな自動化」にあると私は確信しています。 RTX 4090のようなハイエンド環境でなくても、今回のように軽量モデルを選べば十分に実用的なシステムは構築可能です。

よくある質問

Q1: 古いAndroidスマホでも動きますか?

ブラウザが動作し、JavaScriptでカメラが叩ける端末であれば、10年前のスマホでも理論上は動きます。処理の重い部分はすべてPC側(サーバー側)で実行されるため、スマホ側のスペックはほとんど要求されません。

Q2: 判定速度をさらに上げるにはどうすればいいですか?

画像の解像度を下げて送信してください。今回のコードでは640x480に設定していますが、320x240程度まで落としてもVisionモデルの判定精度は大きく下がりません。通信量とデコード時間が減り、レスポンスが改善します。

Q3: 複数のスマホで同時に監視できますか?

Flaskのデフォルト設定では1リクエストずつの処理になります。複数台で運用する場合は、サーバー側を gunicorn などでマルチプロセス化するか、キューを使ってリクエストを管理する必要がありますが、家庭内での2〜3台程度なら、送信間隔を5秒程度に空ければそのまま動くことも多いです。


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