3行要約
- Pinterestの最新決算は市場予想を下回り株価が急落したが、利用者の増加という明るい側面も判明。
- 経営陣はPinterest内での検索数が「ChatGPTの検索数を超えている」と主張し、視覚探索の優位性を強調。
- テキストベースのAIチャットとは異なる「購買意欲に直結する検索」の価値が、今後の広告市場を左右する可能性。
何が発表されたのか
先日、画像探索プラットフォームの大手であるPinterest(ピンタレスト)が、直近の決算発表を行いました。ビジネスとしての数字だけを見ると、売上高や収益見通しが市場の期待に届かなかったことから、株価は一時20%近くも下落するという、投資家にとっては少し厳しい内容でした。
しかし、私が注目したのはその決算の数値そのものではありません。PinterestのCEOであるビル・レディ氏が、投資家向けのカンファレンスで放ったある一言です。彼は「Pinterestで行われている検索の回数は、いま話題のChatGPTよりも多い」という趣旨の発言をしました。
これは非常に興味深い主張です。現在、テック業界の話題はChatGPTやClaude、GoogleのGeminiといった「生成AI」に一色と言っても過言ではありません。誰もがこれらのチャットボットを使い、疑問を解決したり文章を作ったりしています。そんな中で、従来の画像投稿プラットフォームだと思われていたPinterestが、利用頻度においてAI界の王者であるChatGPTを上回っていると宣言したのです。
背景には、Pinterestが長年取り組んできた「パーソナライズ(個人最適化)」と、ここ数年の積極的なAI投資があります。彼らは単に画像を並べるだけのサイトから、高度な機械学習モデルを駆使した「次世代の検索エンジン」へと脱皮を図ってきました。レディ氏によれば、Pinterestの月間アクティブユーザー数は5億人を突破し、過去最高を記録しています。この膨大なユーザーが、毎日のように「次に何を買うか」「どんな部屋にしたいか」を求めて検索を繰り返している。その総数が、質問に答えてくれるAIチャットの利用回数を凌駕しているというわけですね。
この発表は、AIの活用方法が「テキストでの対話」だけでなく、「視覚的な発見」という形でも凄まじい勢いで進化していることを改めて世に知らしめる結果となりました。
技術的なポイント
Pinterestがこれほどの検索数を維持し、さらに成長させている裏側には、実は非常に高度なAI技術が隠されています。単なるキーワード検索ではなく、彼らが得意とするのは「ビジュアル検索」と「推薦(レコメンデーション)システム」です。
まず、PinterestのAIは「グラフニューラルネットワーク(GNN)」と呼ばれる技術を大規模に活用しています。Pinterestには、ユーザーが画像を「ピン」として保存し、それを「ボード」というフォルダにまとめるという特有のデータ構造があります。この「どの画像とどの画像が、同じユーザーによって関連付けられたか」という人間によるキュレーションデータは、AIにとって極めて質の高い学習素材となります。
従来のLLM(大規模言語モデル)がウェブ上の膨大なテキストを学習するのに対し、PinterestのAIは「人間の感性や意図」が反映された画像同士のつながりを学習しています。これにより、「このソファが好きなら、このラグも好きだろう」といった、言語化しにくい「センス」や「雰囲気」を驚異的な精度でマッチングさせることができるのです。
また、最新のPinterestはマルチモーダルAIの活用も進んでいます。ユーザーがアップロードした画像の中にある「特定のオブジェクト」を瞬時に認識し、それと類似した商品を見つけ出すコンピュータビジョンの技術は、現在もトップクラスの性能を誇ります。
特に注目すべきは、低遅延での大規模検索システムです。5億人以上のユーザーが、毎秒のように数千億枚におよぶ画像の中から最適な一枚を提案される。これを実現するためには、高度なベクトル検索エンジンと、ユーザーの好みをリアルタイムで反映させるエンジニアリングが必要です。
ChatGPTのような生成AIは、ゼロから回答を作り上げるため計算リソースを大量に消費しますが、PinterestのAIは「既存の膨大な選択肢の中から、その人に最も刺さるものを選ぶ」というマッチングに特化しています。この「推薦の精度」こそが、ユーザーをアプリに留まらせ、繰り返し検索を行わせる技術的な源泉となっているのです。
競合との比較
| 項目 | ChatGPT | Claude | |
|---|---|---|---|
| 主な用途 | アイデア探し・購買検討 | 質問回答・文章作成 | 複雑な思考・創作支援 |
| 検索の質 | 視覚的・感性的 | 言語的・論理的 | 言語的・文脈重視 |
| データソース | ユーザーのピン保存履歴 | ウェブ上のテキスト | ウェブ上のテキスト |
| 最終目標 | 行動(購入・制作) | 知識の獲得・作業効率化 | 思考の整理・精度の高い生成 |
PinterestとChatGPTなどのチャットAIの決定的な違いは、「検索の目的」にあります。ChatGPTを使うときは、何か具体的な答えが欲しいときや、タスクを代行してほしいときが多いですよね。一方で、Pinterestを使うときは、自分でもまだ言葉にできない「何かいい感じのもの」を探している段階であることが多いです。
これを専門用語で「非言語的探索」と呼びます。例えば、「北欧風のモダンなリビング」という言葉で検索しても、人によって思い浮かべるイメージは千差万別です。ChatGPTに聞けば言葉で説明してくれますが、Pinterestは瞬時に何千枚もの具体的なビジュアルを提示します。
また、ビジネスモデルの面でも大きな差があります。ChatGPTは情報の正確性や生成の質が問われますが、Pinterestは「ユーザーが気に入るかどうか」が全てです。そして、その「お気に入り」はそのまま商品の購入という経済活動に直結しやすい。今回の発表で「検索数が多い」と強調されたのは、それだけ多くの「購買の意思」がプラットフォーム上に流れていることをアピールするためでもあります。
Claudeと比較した場合、Claudeは非常に緻密で人間に近いニュアンスを理解しますが、それでもビジュアルによるインスピレーションの提供という点ではPinterestの専門領域には及びません。用途によって、これらAIの使い分けが明確に進んでいると言えるでしょう。
業界への影響
今回の「PinterestがChatGPTの検索数を超えた」という主張は、今後のデジタルマーケティングやAI業界の勢力図に大きな影響を与える可能性があります。
短期的な影響としては、広告主の視点が変わることが挙げられます。生成AIブームによって、多くの企業が「AIチャット内にどうやって広告を出すか」を模索してきました。しかし、対話型AIでの広告はユーザー体験を損なう可能性が高いという課題があります。それに対し、Pinterestのように「検索そのものがインスピレーション(広告)探し」であるプラットフォームの強みが再評価されるでしょう。ユーザーが自ら「欲しいもの」を探している場所での検索ボリュームがChatGPTを超えている事実は、広告媒体としての価値を改めて証明した形です。
長期的な視点では、「検索の多極化」が進むと考えられます。かつて検索と言えばGoogle一択でしたが、現在は「事実確認はGoogle」「深い対話はChatGPT」「視覚的なインスピレーションはPinterest」「リアルタイム性はX(旧Twitter)」といった具合に、目的ごとに検索エンジンを使い分ける時代になりました。
特に、Pinterestが示唆したのは「AIはテキストだけではない」ということです。今後、AppleやGoogleもビジュアル検索(Googleレンズなど)をさらに強化してくるでしょう。Pinterestがこれに対抗して生き残るためには、独自のユーザーデータに基づく「感性のAI」をどこまで突き詰められるかが鍵となります。
また、これは「人間のキュレーションの価値」が再認識される兆しでもあります。AIが生成した画像で溢れるインターネットの中で、人間が「これは良い」と思って保存した情報の集積であるPinterestのデータは、今後AIをトレーニングするための「質の高いデータセット」として、さらに貴重な存在になっていくはずです。
私の見解
ここからは、私「ねぎ」としての率直な感想をお話ししますね。
正直なところ、今回の「ChatGPTより検索数が多い」というアピールは、決算数値の悪さをカバーするための戦略的な発言という側面も強いとは思います。株価が落ちている局面で、勢いのあるライバル(ChatGPT)の名前を出して比較するのは、テック企業の常套手段ですからね。
ただ、元エンジニアとしての視点で見ると、Pinterestが提供している「視覚的推薦」の価値は、もっと評価されてもいいと感じています。私自身、自分の書斎(デスク周り)を改造しようと思った時、ChatGPTに「おすすめの配置を教えて」とは聞きません。まずPinterestを開いて、無心で画像をスクロールします。そこで見つけた一枚の画像から「あ、こういう照明がいいな」と直感的に感じる体験は、今のところテキストベースのAIでは代替できないものです。
個人的には、今後Pinterestが生成AIをどう取り込んでいくかに注目しています。すでにPinterest内でも生成AIを使った広告作成ツールなどが導入されていますが、やりすぎると「人間が選んだ素敵なもの」というPinterest最大の強みが薄れてしまうリスクもあります。
みなさんも、最近は「検索」と言えばGoogleやChatGPTばかりになっていませんか?もしクリエイティブな刺激が欲しい時や、言葉にできないワクワクを探しているなら、ぜひPinterestを開いてみてください。そこには、論理的なAIとはまた違う、人間の感性とAIが融合した独特の検索体験が待っています。
結局のところ、AIの進化というのは「効率化」だけでなく、私たちの「好き」をどれだけ広げてくれるかにあると思うんです。Pinterestの今回の主張は、そんなAIのもう一つの可能性を思い出させてくれる、興味深いニュースでした。
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