3行要約

  • IBMが2026年に米国でのエントリーレベル(新人・初級職)の採用を従来の3倍に拡大すると発表。
  • AIによって仕事が奪われるという懸念に対し、AIを使いこなす「拡張された人材」を積極的に確保する方針。
  • 単なるコーディング能力よりも、AIをオーケストレーションし、ビジネス価値へ変換する能力が重視される。

何が発表されたのか

みなさん、こんにちは。AI専門ブロガーのねぎです。

最近、AIの進化によって「ジュニアエンジニアや新人の仕事がなくなるのではないか」という不安の声を本当によく耳にします。私自身、元SIerのエンジニアとして、駆け出しの頃に必死に覚えた基礎スキルがAIに置き換わっていく現状を目の当たりにし、複雑な思いを抱くこともありました。

しかし、そんな業界の常識を覆すような衝撃的なニュースが飛び込んできました。IT大手のIBMが、2026年における米国でのエントリーレベルの採用数を、これまでの3倍に引き上げると発表したのです。

この発表の驚くべき点は、単に「人が足りないから増やす」という話ではないことです。IBMは、AI時代において「若手人材に期待する役割」を根本から再定義しようとしています。これまでの新人の仕事といえば、仕様書通りのコーディングやデバッグ、資料作成といった、いわゆる「下積み」的な業務が中心でした。しかし、IBMが2026年から採用する新人たちは、最初から「AIをパートナーとして使いこなし、生産性を何倍にも高めること」が前提となっています。

IBMのCEOであるアービンド・クリシュナ氏は、以前からAIによる業務効率化を提唱してきましたが、今回の発表はその戦略が「AIによる人員削減」ではなく、「AIを武器にした組織の拡大」へとシフトしたことを示唆しています。つまり、AIができることはAIに任せ、人間はより高度な意思決定や創造的な設計に集中する。そのための「新しいエンジニア像」を、IBMは大量採用という形で自ら作り出そうとしているわけですね。

背景には、同社のAIプラットフォーム「watsonx」の普及や、量子コンピューティングといった次世代技術の実用化があります。これらの高度な技術を現場で回すためには、従来型のエンジニアではなく、AIと共生することを厭わないデジタルネイティブな感性を持った若手が必要不可欠だと判断したのでしょう。

技術的なポイント

今回のIBMの発表を技術的な視点から深掘りすると、そこには「AI-Augmented Engineering(AIによって拡張されたエンジニアリング)」という明確なビジョンが見えてきます。

これまでのエンジニアのスキルセットは、プログラミング言語の習得、フレームワークの理解、データベース操作といった「手段」が中心でした。しかし、IBMが求める2026年スタイルのエンジニアに求められるのは、それらの手段を「AIに適切に指示し、統合する能力」です。

具体的には、以下のような技術的アプローチが背景にあると考えられます。

まず一つ目は、「エージェンティック・ワークフロー」の活用です。これは、単にチャットUIでAIに質問するだけでなく、AIエージェントが自律的にコードを書き、テストを走らせ、デプロイまでを行う一連の流れを管理する技術です。新人のエンジニアは、自分で一行ずつコードを書くのではなく、AIエージェントの動きを監視し、ビジネスロジックに齟齬がないか、セキュリティ上の脆弱性がないかをチェックする「監督者」としてのスキルが求められます。

二つ目は、IBM独自の「Granite(グラナイト)」モデルなどの企業向けLLMの活用です。汎用的なAIとは異なり、企業のガバナンスやコンプライアンス、特定の業界知識に最適化されたモデルをいかに使いこなすかが鍵となります。これには、RAG(検索拡張生成)の構造を理解し、社内データとAIを安全に接続するアーキテクチャの知識が必要です。

そして三つ目は、「AI駆動型のテストと品質保証」です。AIが生成したコードの品質を担保するためには、AI自身にテストケースを書かせ、その妥当性を人間が高度な視点から検証する必要があります。

つまり、IBMが想定している技術スタックは「プログラミング言語 + AIオーケストレーション + ドメイン知識」という3階層になっています。新人がいきなりこれらをこなすのはハードルが高いように思えますが、IBMはこれらを支援する内製ツールや教育カリキュラムをセットで提供することで、短期間で戦力化する狙いがあるようです。

競合との比較

項目IBM(今回の発表)ChatGPT (OpenAI)Claude (Anthropic)
主なアプローチ企業内での「人+AI」の組織化汎用的な生産性向上ツール高度な推論と安全性の提供
ターゲット大規模エンタープライズ、SI個人開発者から企業まで研究者、開発者、文章作成者
採用戦略新人採用を3倍にし、AI人材を育成少数精鋭の天才エンジニア中心高い論理的思考力を持つ人材
技術の核watsonx, Granite, ハイブリッドクラウドGPT-4o, マルチモーダルClaude 3.5 Sonnet, 高いコンテキスト窓

IBMの戦略がChatGPTやClaudeを提供しているテック企業と決定的に違うのは、彼らが「プラットフォーマー」であると同時に、膨大な顧客を抱える「サービスプロバイダー(SIer)」であるという点です。

OpenAIやAnthropicは、いかに優れたモデルを作るか、いかに強力なツールをユーザーに提供するかに注力しています。そのため、彼ら自身の採用は極めて少数精鋭であり、AIによって「人間を代替する」側の立ち位置に近いと言えます。

対してIBMは、AIというツールを使って「顧客のビジネスをどう変えるか」を主眼に置いています。顧客の複雑な業務を理解し、AIを組み込んでシステムを構築するには、結局のところ「人間」の介在が不可欠です。今回の発表で新人採用を3倍にするという決断は、AIが進歩すればするほど、それを現場に落とし込むための「AIリテラシーの高い実務者」が大量に必要になる、というIBMの現実的な予測に基づいています。

業界への影響

このIBMの動向は、IT業界全体、さらには教育機関に対しても極めて大きな影響を与えることになるでしょう。

短期的には、「ジュニアエンジニア冬の時代」に終止符を打つ希望の光となる可能性があります。ここ数年、AIの台頭によって多くの企業が若手の採用を絞ってきました。しかし、業界のリーダーであるIBMが「AI時代だからこそ、新しい世代を大量に採用する」という姿勢を示したことで、他の大手SIerやコンサルティングファームもこれに追随する可能性があります。「AIがあるから新人は不要」ではなく、「AIを使いこなす新人が最強の戦力になる」というパラダイムシフトが起こるわけです。

長期的には、エンジニアの教育カリキュラムが劇的に変化するでしょう。大学やプログラミングスクールでは、構文を暗記するような学習は意味をなさなくなり、AIへのプロンプトエンジニアリング、AIが生成したアウトプットの検証方法、そして何より「顧客の課題をどう技術で解決するか」という上流工程の思考法が教育の中心になります。

また、給与体系やキャリアパスにも影響が出るはずです。もし新人がAIを使ってシニアエンジニア並みのスピードで成果を出せるようになったとしたら、年功序列の評価制度は完全に崩壊します。能力ベースの評価が加速し、若くして大規模なプロジェクトを率いるエンジニアが続出するかもしれません。

一方で、これは若手にとって「常にAI以上の価値を提供し続けなければならない」というプレッシャーが増すことも意味します。単純な作業がなくなる分、常に「考えること」を求められる、より知的体力が試される時代に突入したと言えるでしょう。

私の見解

正直なところ、このニュースを初めて聞いたときは「本当に大丈夫かな?」と少し疑ってしまいました。というのも、私自身がSIer時代に経験した「新人の教育」は、泥臭い手作業を通じて基礎を叩き込むものだったからです。そこをスキップして、最初からAIを使いこなすステージに飛び級させて、本当に技術の本質を理解できるのか、という懸念が拭えませんでした。

しかし、冷静に今のAIの進化を追いかけていると、IBMの判断は極めて合理的だと思い直しました。かつて、アセンブラから高水準言語へ、物理サーバからクラウドへと技術が抽象化された際も、「基礎が疎かになる」という批判はありました。でも、結局は抽象化を受け入れ、より高いレイヤーで仕事をした人たちが新しい時代を作ってきたんですよね。

個人的には、IBMのこの試みは「エンジニアの民主化」を一段階進めるものだと感じています。コードを書くという障壁が下がり、ビジネスや社会の課題をどう解決するかという「構想力」が本当の武器になる。これって、本来エンジニアが目指すべき姿ではないでしょうか。

みなさんはどう思いますか?AIに仕事を奪われると怯えて立ち止まるのか、それともIBMが提示するように、AIを使い倒して自分の市場価値を3倍に高めるのか。

私としては、もちろん後者の道を選びたいと思っています。これからIT業界を目指す人、あるいは今まさに新人として苦労している人にとって、今回のIBMの発表は大きなチャンスです。基礎を大切にしつつも、最新のAIツールを恐れずに自分の手足として馴染ませていく。そんな「ハイブリッドなエンジニア」こそが、これからの主役になるのは間違いありません。

これからも、こうした技術と雇用の変化については注視して発信していきたいと思います。一緒に新しい時代の波を乗りこなしていきましょう。


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