3行要約

  • IDC MarketScapeの日本AIサービス市場調査において、NECが最高位の「リーダー」区分に選出された。
  • 独自LLM「cotomi」の開発力と、コンサルから保守までを一気通貫で手掛ける「AI実装力」が高く評価。
  • 汎用AIの導入期が終わり、国内企業が「セキュアで業界特化型の実務AI」を求めるフェーズに移行したことを象徴。

何が発表されたのか

米系調査会社IDC Japanが実施した「IDC MarketScape: Japan Artificial Intelligence Services 2025 Vendor Assessment」において、NECが「リーダー」のポジションに選出された。この調査は、国内のAIサービスプロバイダーの戦略と能力を多角的に評価するものだ。

NECが評価された主な要因は、同社の生成AIサービス群「NEC Generative AI Service」と、独自開発のLLM「cotomi」を中心とした技術ポートフォリオである。単にモデルを提供するだけでなく、AI導入のコンサルティングから、RAG(検索拡張生成)の構築、さらには自社スーパーコンピュータを活用したカスタマイズまでをパッケージ化している点が、保守的な国内エンタープライズ層に刺さった形だ。

特に、金融、公共、製造といった「機密情報が外部に出せない」業界に対し、オンプレミスや閉域網でのLLM運用を具体化した点が、外資系ベンダーとの差別化要因となっている。

競合との比較

項目今回の発表(NEC / cotomi)ChatGPT (OpenAI)Claude (Anthropic)
主なターゲット国内エンタープライズ、官公庁全世界の個人・法人汎用開発者、高度な文書分析、創造職
得意領域日本語の専門用語、業務特化、SI連携汎用的な推論、コード生成、多言語長文コンテキスト、倫理的安全性
導入形態オンプレ、閉域クラウド、SIer支援マネージドSaaS、APIマネージドSaaS、API
データ保護国内完結、高度なカスタマイズ性基本クラウド処理(Enterprise版除く)クラウド処理
評価のポイントシステム統合を含むトータルサポートモデルの圧倒的な推論能力高い記述精度と視覚理解

業界への影響

この選出は、日本のAI市場が「モデル性能の競争」から「業務適応の競争」へと完全にシフトしたことを示唆している。

  1. 「Sovereign AI(主権AI)」への回帰: 政府や重要インフラにおいて、データ主権を維持できる国産プラットフォームの需要が改めて確認された。外資依存のリスクを懸念する企業にとって、NECのような国内ベンダーが「リーダー」であることは、予算投下の免罪符となる。

  2. SIerの再定義: 単なる「受託開発」ではなく、自社でLLMというコア技術を持ちつつ、それを顧客の既存システムに「溶け込ませる」能力が求められている。今後、他の中堅SIerも独自モデルか、あるいは特定モデルの高度なチューニング能力を持たない限り、淘汰される可能性が高い。

  3. RAGとファインチューニングの加速: 汎用モデルをそのまま使うのではなく、企業固有のデータを用いたカスタマイズが標準化する。NECが強みとする「業種別特化モデル」の展開は、B2B AIの勝ち筋を一つ示したと言える。

Negi Labの見解

IDCの「リーダー」選出。聞こえは良いが、エンジニア視点で見れば「技術的ブレイクスルー」というよりは「日本国内での商売の巧さ」が評価された結果だろう。

確かに「cotomi」は日本語特化で軽量という強みがあるが、推論能力の絶対値でGPT-4oやClaude 3.5 Sonnetと真っ向から勝負するのは分が悪い。しかし、ビジネス現場では「世界最強の知能」よりも「自社のガバナンスを遵守し、既存システムと喧嘩せずに動くAI」が勝つことが多いのも事実だ。

NECへの苦言を呈するならば、この「リーダー」という称号に胡坐をかき、コンサル料とSI費用で稼ぐ旧態依然としたビジネスモデルに執着してはならない。真に評価すべきは、独自スパコンを運用し続ける泥臭い継続性だ。外資の圧倒的な計算資源に対し、どう「垂直統合」の付加価値を出し続けられるか。今回の評価は、その持久戦に参加する「入場券」を得たに過ぎない。

現場のエンジニアは、派手なレポートの順位に惑わされず、提供されるSDKの使い勝手や、RAGの精度、トークンあたりのコストパフォーマンスをシビアに見極めるべきだ。